◆◇ 追い詰められる若者に手をさしのべるには。 ◇◆ 政府の統計によると、日本の自殺者数は近年全体として減少してきていますが、依然として年間2万人を超えており、未だ深刻な状況となっています。(注1)
なかでも、日本における10~39歳の若年層の死因順位の1位は自殺となっており、(注2)、15~34歳の死因順位の1位が自殺となっているのは先進国G7の中でも日本のみだそうです。(注3)
また、特に19歳以下においては、男女とも、他の年代に比べ、「飛び降り」や「飛び込み」といった、突発的に行われ得る手段による自殺が多くなっています。(注4)
若者の自殺の背景や原因には、児童虐待を含む家庭問題や、健康問題、人間関係など個別には様々ありますが、特に学校問題、学校での人間関係に起因する割合が多いと推測されます。
文部科学省の最新(2020年度=20年4月~21年3月)のデータでは、いじめ認知件数は減っています。(注5)
これは、コロナのために、同年3月から5月末ごろまで、全国の学校が一斉休校になり、6月以降も少人数での分散登校やオンライン授業が多くなって、子どもたちが直接触れ合う機会が減ったからだと思われます。反対に、SNSを通じた、ネットいじめは増えています。
学校から、見えにくいなかで、いじめに苦しんでいる子どもたちが増えているのです。
また一方では、学校に持ち込んだ包丁でいきなり同級生を切りつけるといった事件も複数、起きています。(注6)
学校は判を押したように「いじめは把握していない」と報道機関に語っています。
1月15日には東京大学弥生キャンパス(東京都文京区)前で、大学入学共通テストの受験生ら3人が、17歳の高校生により刃物で刺されるという事件が起きました。
報道によれば、逮捕当初の警視庁の調べに少年は、「医者になるために東大を目指してきたが、約1年前から成績が上がらず、自信をなくしてしまった」と話したとのことです。
少年鑑別所で勤務経験のある出口保行・東京未来大教授(犯罪心理学)は、「東大などの社会的な評価を意識しすぎて、罪を犯せば捕まるリスクと人生を台無しにするコストを考えることができなくなってしまったのではないか」と述べています。その上で、「小田急線や京王線の事件から、自分にできそうなところを精査して犯行を組み立てており、かなり計画性が高い」とも指摘しています。(注7)
加えて、少年の変化や事件の予兆に周囲の人が気付かなかった背景には、人と人の接点が減った新型コロナウイルス禍の影響が大きいとし、「NPOなどの機関に気軽に相談できるような環境づくりが大事だ」と話した、と報道されています。(2022年1月22日付東京新聞)
若者の自殺(自傷)、あるいは若者による暴走(他害)、この問題に対してどのようにアプローチすべきでしょうか。
あるいじめ自殺を防ぐための団体では、「気軽に相談できる環境が必要」との意見が述べられていますし、心理系の有識者も同様の結論を出していますので、自殺予防にも他害行為の予防にも、これは共通した認識だと思います。
子どもたちの場合、本来、親身になって悩み事を受け止めるのは「学校」と「家庭」のはずです。
では、人との接点が多くなり、保護者や先生達とのコミュニケーション量が増えれば、自殺も他害行為も少なくなるのでしょうか。
単純にそうとも言い切れない現実があります。
家庭においては、現在、コロナの蔓延防止のために、保護者の会社がテレワークになったり、子どもの保育園や小中学校も登園や登校停止を余儀なくされたりしています。
いつもはいないはずのお父さんとコミュニケーションが取れる機会は増えているはずですが、反面、経済的な問題などで保護者は困難な状況下にあります。
したがって、実際にはコミュニケーションを取りにくい家庭も生まれているのではないかと思います。
いま、学校には、臨時休校等によりやむを得ず学校に登校できない児童生徒等に対し、「学びを止めないという観点から指導されたい」と文部科学省から「お願い」が来ていますが、子どもたちの学校生活には大きな制約があると言えます。
先日、子どもたちが活き活きとして、笑い、遊び、楽しそうにしている場所に出会いました。
それは、大きな公園施設です。都会のオアシスと言えるのではないでしょうか。
親子連れもいましたが、学童や子ども会、民間スポーツ組織などの引率者が,大勢を連れてきていました。なかには、重たいヘルメッドをかぶった子もいて、大きなマスクをしながらも、子どもたちは笑っていました。
明るい音楽も流れていました。緑の木々、走り回れるグランド、色とりどりの花が咲き乱れる花壇、遊具。犬の散歩の光景。さわやかな風のタッチ。
「本当は、学校のような広々とした運動場や通気の良い教室などが確保される場所のほうが、子どもたちにとっては安全だ」と訴える医師の言葉も報道されていたりします。
人間は、意識して知的な訓練を経なければ、成長しませんが、感情や情緒においても、それを伸ばしてあげるべく、大人が意識しなければなりません。子ども、若者、青年たちを愛しているのであれば、コロナのもとでも創意工夫は可能です。
詩歌や音楽、芸術活動、そして運動スポーツなど、これほどまでに、かけがいのない宝ものだったのか、と改めて感じています。
心理ケアやサポートの世界には、芸術療法と呼ばれる分野があります。専門的には潜在意識まで踏み込むことがあります。子どもや若者たちは、可塑性に富んでいるので、自分自身で立ち直り、成長させていく力を持っています。
せまいところに、閉じ込めるのではなく、広い世界に羽ばたかせることが大事なのではないでしょうか。
ネットやSNSといった、狭い世界ではなく、外は広いのだと気づかせる、質の高い教育が行われるとことを心から願っています。それは、単にコミュニケーション、接触の量ではなく、質なのです。本当のアクティブラーニングは双方向です。
たとえ、オンライン授業であっても、感動を経験する、伝える教育は可能です。また、一人だけ残して、一対一で、質問の機会を設けて、困っていることの相談にのることもできます。聞く耳があるかどうかの問題であって、ツールの問題ではありません。
現在、日本ではコロナがやや落ち着きを見せ、4月から多くの学校で対面授業が再開していますが、水面下では新たな問題も出現しています。うれしいはずの登校なのですが、オンライン慣れ、ひきこもり慣れもあり、メンタルを理由に、オンライン授業を継続したいと希望する学生や保護者も一定数ですが出現しています。
さあ、ときには、若者や子どもたちだけなく、大人も、動物園や水族館に行きましょう。
多様性のある、この地球の生きものたちに触れて、生きていく力を感じ取ることで、癒されるのではないでしょうか。バーチャルではない、尊い生命を感じてください。
人間として存在するからには、だれも自殺をしてはなりません。当然、他人を害してはなりません。
そして、人と関わることを「自分が害される経験」ではなく、成長のための「豊かな体験」として受容できるよう、心の向きを変えてみましょう。
あなたは、かけがいのない「人」なのだから。
精神保健福祉士・社会福祉士・元保護観察官
福祉系大学講師
堀田利恵(注1)令和3年(2021年)中の自殺者数は21,007人で、前年(令和2年)の21,081人から74人減少した。
厚生労働省自殺対策推進室/警察庁生活安全局生活安全企画課「令和3年中における自殺の状況」2ページ 自殺者数の年次推移 → https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R04/R3jisatsunojoukyou.pdf(注2)厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況」36ページ 第7表 死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)・死因順位 別 → https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dl/gaikyouR2.pdf(注3)厚生労働省「令和3年版自殺対策白書」10ページ 第1-8図 先進国の年齢階級別死亡者数及び死亡率(10歳代及び20歳代、死因の上位3位) → https://www.mhlw.go.jp/content/1-1-03.pdf(注4)厚生労働省「令和3年版自殺対策白書」27ページ 第1-27図 令和2年における男女別・年齢階級別(10歳階級)・自殺の手段別の自殺者数の構成割合 → https://www.mhlw.go.jp/content/1-1-06.pdf(注5)2020年度(20年4月~21年3月)の小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は517,163件で、前年度(612,496件)に比べ95,333件(15.6%)減少した。
文部科学省「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」1ページ → https://www.mext.go.jp/content/20201015-mext_jidou02-100002753_01.pdf文部科学省「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」 22ページ いじめの認知(発生)件数・認知(発生)率の推移 → https://www.mext.go.jp/content/20211007-mxt_jidou01-100002753_1.pdf(注6)2021年11月24日には愛知県弥富市の市立中学で3年男子生徒が同級生の男子生徒を包丁で刺殺、2022年2月16日には三重県名張市の市立中学で2年の男子生徒が同学年の男子生徒に包丁で首を切り付けて負傷させた。また、2021年11月19日には北海道根室市の商業施設で、中2男子が包丁で女性店員(57歳)の首などに切り付け、殺人未遂の疑いで現行犯逮捕されるという事件も起きている。
(注7)小田急線の事件:2021年8月6日、走行中の小田急線車内で、30代の男が牛刀で1人の乗客を刺し、さらに振り回した牛刀が当たるなどして、乗客10名が重軽傷を負った事件。
京王線の事件:2021年10月31日、走行中の京王線車内で、20代の男が刃物で1人の乗客を切りつけた上、ライターオイルを撒いて放火し、乗客18人が重軽傷を負った事件。

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◇ 代表メッセージ ◇
◆◇ 5月、いじめが始まる季節 ◇◆新緑の季節、5月です。
気持ちの良い朝を迎える日も多くなったことと思います。
ゴールデンウィークも終わり、子供たちも本格的な勉強の時間を迎えていることでしょう。
私立高校のサッカー部コーチによる暴行の様子がネットにアップされた結果大きな事件となっています。
熊本県八代市の私立秀岳館高サッカー部のコーチによる部員への暴行事件の報道が収まりません。
5月5日の学校の記者会見では、部内での暴行が38件にも上ったという報告がなされています。うち同コーチによる暴行は24件、生徒間の暴行が13件、けが人も8人確認されたものです。
このコーチはすでに書類送検されています。いじめであり、立派な犯罪です。暴行でけが人も出ていますから、傷害罪です。
さらにとんでもない事実も報道されています。
4月26日には、部員が入学前の中学生に暴力を振るっていたことが明らかになりました。
中学生はサッカー部に入部を予定しており、入学前から寮に入っていたのですが、3月下旬、暴力を受けて退寮して、スポーツ推薦で入学できなくなってしまいました。
この中学生に対する救済措置がないまま新学期を迎えてしまっています。中学浪人をつくり出してしまったことに対してなぜ、秀岳館高校は、責任を取ろうとしないのでしょうか。
この年齢での一年のブランクは人生への影響が大きすぎます。あまりにも身勝手だと感じます。
この一連の事件は部員がネットにあげた動画がきっかけで発覚したものですが、それを隠蔽するために監督は、生徒らに謝罪動画をあげさせたり、自らテレビ番組に出演し、虚偽の内容で火消しを図ったことが暴露されてしまいました。
監督が土下座して謝罪したと報道されていますが、それで済ませて良いわけがありません。
加えて、かつて監督に暴力をふるわれたというOBの証言も報道されています。
暴力による支配が常態化したために、部員もまた暴力による支配が当然という考え方を受け入れたのでしょう。
本末転倒です。本来、高校は、サッカーをするために存在を認められているわけではありません。サッカー選手の養成所ではありませんし、高校を有名にするための道具でもありません。
なんのための教育なのか、なんのための学問なのか。
教育関係者は日々、自らに問いかけていただきたいのです。
話は変わりますが、新型コロナによる蔓延防止策が解除されている今、マスクをしているとはいえ、今年度の子供たちにとっては2019年以前のような学校生活が始まっています。
つまり、いじめ問題においても例年並の事件が起きる可能性が高くなっているということです。
4月の間は様子をお互いの伺っていた子供たちですが、この5月ぐらいから慣れてきます。
改めて、「5月」です。
慣れると同時にいじめが起きる可能性も高くなってきます。
それが5月という時期なのです。
私たちのところには、早々に、いじめ相談も入ってきています。
新入生として入学してたった一ヶ月でいじめが始まってしまいました。
そこで、保護者の皆様には、いじめが起きた場合に慌てずに対処する方法について知っておいていただきたいのです。
大切なことは、「いじめだ」と感じたら躊躇しないことです。
すぐに学校に連絡、相談してください。
いじめに対処するのは「学校の責務」です。学校はいじめに対処する義務があるのです。
ある中学生は、いじめが始まって一週間程度で不登校になりました。
その子の方を向いて、こそこそ笑う、
ひそひそばなしが聞こえてくる、
あだなをつけられる、
なんとなく避けられる。
そんないじめが続いた一週間。
朝、学校に行きたくないと言い出し、なんとか送り出しても、学校から帰ってくるなり部屋に引きこもり、次の日には朝から泣いて母親に八つ当たりします。
不登校になりました。
たった一週間ですが、その子にとっては地獄のような毎日です。
このような精神状態にまでなってしまうと、簡単には学校に通えるようにはならないのです。
学校が大好きだった子が一週間でこんなにも変わってしまいました。
「もう少し様子を見よう」と考えないでください。
お子さんからこのような相談を受けたら、すぐに学校に相談することをおすすめします。
しかし、実際には、「担任の先生に迷惑がかかるかもしれない」と考えてしまう方も多いように思います。
あるいは「私なんかが校長先生に直接電話して良いのでしょうか」とおっしゃる方もいます。
確かに勇気もいります。
でも、お子さんの一生にかかわる精神的な傷が残るかどうかの瀬戸際には、そうは言っていられないということも事実です。
お子さんを守るため、小さな一歩を踏み出していただきたいのです。
この小さな一歩は、ものすごく大きな一歩なのです。
「初動」をどう動くかで、まったく違った結果になります。
言葉は丁寧で、優しい言葉遣いで話すことは大切ですが、心のなかでは「うちの子をどうしてくれるんだ。いじめなんか絶対に許さない」というぐらいの強さを持って交渉に臨んでいただきたいと思います。
やや過激に聞こえるかもしれませんが、隠蔽圧力に負けない強さを持つことは大切です。
その場合に、手書きでも結構ですから、いじめの内容を、紙に書き出したり、パソコン等に打ち込んだりして、できるだけ、直接に手渡していただきたいと思います。
加えて、学校にお願いする内容も別の文書にして渡すことが、交渉をスムーズに運ぶポイントになります。
学校に依頼する内容としては、すぐにいじめを止めさせること。
加害者を叱ること。
加害者に謝罪させること。
それ以外にも、いじめを2度としない約束、加害者の保護者に連絡すること、グループ替えやクラス替え、席替え、あるいは休み時間の見守りなどの要望を入れても良いでしょう。
加えて、学校との交渉の場には、何人かで訪れることをおすすめしておきたいと思います。学校が「いじめの対処」を渋ることが無いようにするために効果的です。
簡単にいじめが起きたときの対処について書きましたが、よくわからない点も多いと思います。
不安に感じたら、どうぞご遠慮なくご相談いただけるとうれしく思います。
一般財団法人 いじめから子供を守ろうネットワーク
代表 井澤一明
井澤一明ブログ: http://ameblo.jp/kzizawa/Facebook: http://www.facebook.com/kz.izawaTwitter: @kzizawa

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