いじめ予防教育、欧米では主流、加害者の心の特性にアプローチ 

いじめ予防教育、欧米では主流
加害者の心に 「メス」


 教諭「○○さんの良いところは」
 児童「妹と学校に来て仲良く遊んでいるところ」
 教諭「うわー、良いところを見つけてるね!」
 9月19日、徳島県阿南(あなん)市にある市立平島(ひらじま)小学校では4年生のクラスでユニークな授業が行われていた。テーマは、「友人の長所を相手に伝える」。
 「いつも笑顔でいられるところ」、「ドッジボールでボールを譲ってくれるところ」…。児童全員が日常生活で気づいたクラスメートの長所を発表していく。
 実際に長所を書き出すことで、相手を好意的に見る心を育てるのが狙いだ。

 この授業は、いじめなどを未然に防ぐことを目指す「予防教育」プログラムの1コマだ。
 発達心理学を長年研究してきた鳴門教育大の山崎勝之教授(57)が所長を務める予防教育科学センターが開発。文部科学省の支援を受け、平成22年から徳島県内の小学校で試験的に実施している。
 山崎教授は、「いじめは早期発見、対応という対症療法も必要だが、根本的になくすためには予防教育が必要」とし、その方法は加害者の心の特性にアプローチすることだと指摘する。

 「いじめは誰かを加害し相手が困ることに喜びを感じる『幸福な加害』という心理学的現象や、幼少期に受けたいじめに匹敵する親の攻撃性など複数の特性が影響して起きる。児童期後半には抑制されていくが、後々まで残るため、この特性を変えることが必要だ」

 授業を担当した同小の篠原美樹教諭(48)は、「自分や友達を大事にするような授業を積み重ねることで、いじめなんかつまらないという考えになってくれればいい」と期待する。

◆傍観者にも責任

 10月6日、大阪市内でいじめ予防教育の国際専門家会議が開かれた。
 日本でのなじみは薄いが、予防教育は欧米では主流となっており、特に米国では多くの小中学校で導入されている。
 会議ではフィンランドのトゥルク大学で、いじめ問題を研究しているクリスティーナ・サルミバリ教授が、同国の9割の小中学校で予防教育が導入され、いじめが減るなどの効果が出ていると報告した。
 サルミバリ教授は、「見て見ぬふりをする傍観者もいじめの一部になっていると認識させることが重要だ」と指摘。コンピューターゲームで傍観者にならないことを学習していく教材を紹介したり、教員が目立つ蛍光色のジャンパーを着て学校を巡回する活動などを報告した。

◆「反省義務付けを」

 日本での予防教育普及を目指す山崎教授らのプログラムは、(1)自分に自信を持つこと、(2)他人を信頼できること、(3)生来的なやる気-の3つからなる「自立性」と「対人関係性」を身に付けさせることが目標だ。
 授業では児童同士の話し合いが中心で、討論する中で子供たちに表現方法や感情のコントロール方法を身に付けさせる。
 効果の検証はこれからだが、これまでに、「保健室登校の子供が教室に戻った」、「子供たちが積極的に発言するようになった」といった声が寄せられている。
 山崎教授は、「対症療法だと加害者の環境が変われば、またいじめを始める。どんな環境でもいじめをしない子供を育てることが真のいじめ防止策」と話す。

 まだ緒に就いたばかりの加害者へのアプローチの研究だが、いじめ自殺の遺族らも、「いじめ問題は加害者に反省を求めていくことが大切」と訴える。
 しかし、実際のいじめの現場では大津市のケースのように、加害者がいじめ自体を否定したり、保護者が強く反発したりして反省どころか調査さえ拒まれることも少なくない。

 高1の長女を失った小森新一郎さん(56)は、「『加害者にも人権がある』と言われるが、そういう考え方が反省の機会を奪っている。加害者に反省させることを学校教育で義務付けるべきだ」と話す。

【用語解説】鳴門教育大予防教育科学センターの予防教育プログラム
 仲間への信頼感や自己肯定感を培うことなどで、いじめや校内暴力、不登校などの学校に適応できないケースに加え、鬱病、肥満など心身の不健康を未然に防ぐことを目指す。小3から中1までの5年間で計160時間。総合学習の時間での実施を想定しているが、膨大なプログラムをどう取り入れていくかが普及への課題。
【2012年10月28日 産経新聞】


 

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