◆◇ それでも教師への懲戒規定は不要というのか ◇◆ 6月26日、国会が閉会となりました。今国会では、いじめ防止対策推進法(いじめ防止法)を改正し、教員への処罰規定を盛り込むことが期待されていたのですが、残念ながら、改正に至りませんでした。
昨年末の改正素案には、懲戒規定が盛り込まれていたのですが、4月に公表された、「座長試案」(超党派の国会議員の勉強会の馳浩座長作成の改正案)で削除されていました。
削除に対し、私たちいじめから子供を守ろうネットワークも反対を表明しておりましたし、いじめで自殺されたお子さんのご遺族等を中心に次々と反対の声がわき起こりました。
昨年末の改正素案には、教職員への懲戒に関して、
・ いじめ防止法に違反した教職員への、懲戒等の基準と手続きを、各地方自治体は定めること(改正素案第24条の2)
・ いじめ防止法に違反した公立学校の教職員を、地方公務員法に基づいて適切に懲戒処にすること(第24条の2の2)
の2つが定められていました。(注)
削除理由を、座長の馳氏は、「屋上屋を架すことになる。威圧するような表現は控える」と説明し、教育現場からは、「地方公務員法で懲戒できるのだからいじめ防止法での明文化は不要だ」とか、「現場の萎縮を招く」との反対があったとのことです。さらには、ネット上では、「いじめを放置したと言われたくないので、いじめを隠蔽する教師が増える」という意見も見受けられました。
確かに、今でも、教職員の違法行為は、地方公務員法に基づいて懲戒処分にできます。改正素案「第24条の2の2」の条文は、その当然のことを注意的に記述したものにすぎません。
しかし、既にあるのにも関わらず、いじめで自殺するような事案であっても懲戒されないケースも多いのです。「いじめ防止法」に盛り込むからこそ、教師に対しての抑止力があるのです。
現時点でも、各地の教育委員会は、「体罰」や「セクハラ」、さらには「窃盗」や「飲酒運転」、「無断欠勤」等した場合の懲戒の基準を決めています。
「いじめ隠蔽」、「いじめ放置」、「いじめ加担」、「いじめ助長」等での基準を盛り込んでいる自治体は少ないのが現実です。
東京都教育委員会、神奈川県教育員会は、「いじめ」に関しての懲戒の基準を定めています。
東京都は、教師から生徒へのいじめや、子供同士のいじめへの教師の加担、助長は、「免職」、「停職」、「減給」、「戒告」のいずれかの処分になるとしています。(東京都教育委員会「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」)。
神奈川県では、「いじめ」の放置、助長等の不適切な言動等は、「免職」、「停職」または「減給」になると定めています。(神奈川県教育委員会「懲戒処分の指針」)。
懲戒について明文化すると、学校現場が「萎縮する」とか、「いじめの隠蔽に走る」との反対意見もあるようですが、現在でも数多くの隠蔽事件が起きており、明文化しようとしまいと、「私たちは隠蔽する」と言っているのと同じです。
実際に、懲戒処分規定のある自治体の先生方からお話をうかがう機会も多いのですが、現場が「委縮」しているという話題は全く出てきません。
繰り返しますが、むしろ現在、いじめ防止法に懲戒に関する規定がなく、懲戒の基準等の定めがないことから、懲戒処分に処しても、いじめ自殺等の重大な事態であっても、教師に甘すぎる懲戒処分が横行しているように思えます。
例を上げますと、
(1) 山形県天童市中1女子生徒のいじめ自殺事件(2014年1月)では、保護者が相談していたのに学校が対応しなかったことで、自殺に至りました。
これに対しては、担任と部活顧問を「減給10分の1(3カ月)」、学年主任と教頭を「戒告」という、あまりにも軽い処分となっています。
(2) 兵庫県加古川市の中2女子生徒いじめ自殺事件(2016年9月)においても、死亡の3カ月前のアンケートで生徒のいじめ示唆を見逃すなどしていたにもかかわらず、担任と学年主任が訓告、部活顧問と1年時の担任を厳重注意に、校長を「戒告」だけですませてしまいました。
懲戒処分には、重い順に、「免職」「停職」「減給」「戒告」があります。しかし、いじめ自殺事件では「減給」や「戒告」、ひどい場合には何の処分もないことがあります。
たとえば、2016年、兵庫県の女性教諭が、給食の牛乳やパンを余分に注文して、無断で自宅に持ち帰っていた事件では、代金約6200円を弁償したものの、「停職1カ月」になりました。
教師が生徒を自殺に追い込むことと、パンを盗むことでは、盗みのほうが重いというのは、あまりにも不公平という気がします。
ただ、こんな事例もあります。
神奈川県では、茅ケ崎市の市立小の男子児童がいじめられて、小3から2年以上不登校になった事件について、担任はいじめを知りながら対応せず、「いじめを認識していなかった」等と虚偽の説明をしたとして、「停職1カ月」という重めの処分を下しています。
ちなみにこの時、校長は「減給10分の1(6カ月)」、教頭は「戒告」の懲戒処分とされました。
いじめを認識しながら放置して、生徒の死亡や長期の不登校などの重大な結果になった場合には、この茅ケ崎市の処分のように、「停職」や「免職」の処分にすることが、正当で公平な処分と感じられるのではないでしょうか。
次の国会までに改正案を練り直し、いじめ防止法に教師への懲戒規定を定めるべく改正していただきたいと思います。
いじめから子供を守ろう ネットワーク
松井 妙子
(注)昨年末時点で、いじめ防止法の改正素案には、懲戒に関して次の2つの条項が定められていました。
(懲戒その他の措置の基準及び手続)
第24条の2 地方公共団体は、教職員がこの法律(筆者注:いじめ防止対策推進法)の規定に違反している場合(教職員がいじめに相当する行為を行っている場合を含む。)における当該教職員に対する懲戒その他の措置の基準及び手続を定めるものとする。
(地方公共団体が設置する学校の教職員に対する懲戒)
第24条の2の2 地方公共団体が設置する学校の教職員の任命権者は、当該学校の教職員がこの法律の規定に違反している場合であって必要があると認めるときは、地方公務員法第29条の規定に基づき、適切に、当該教職員に対して懲戒を加えるものとする。

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