「心に寄り添う」
-子どもを自殺させないために大切なこと- 子どもが自殺する、あるいは、子どもが同級生を刺す。なんと衝撃的な事件だろう。ありえない。保護者、地域、教育関係者、そして子供たちはさぞかしショックなことでしょう。
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先の7月、岐阜市の市立中3年の男子生徒(14)が3日朝に自宅近くのマンションから転落死した。
市教育委員会は5日、記者会見を開き、生徒が学校でいじめを受けていた事実を認めた。生徒の自宅からは、いじめを苦にした自殺を示唆する内容のメモが見つかった。5月末には同級の女子生徒が手紙で、男子生徒へのいじめを担任に知らせていた。
記者会見した早川三根夫教育長は、「いじめを受けながら『大丈夫です』と答えていた男子生徒の悲しみにも、勇気を奮って手紙を書いた女子生徒の気持ちにも、学校は寄り添えていなかった」と謝罪した。
事件から1か月後の8月3日、早川教育長は、岐阜新聞のインタビューを受けてこう語った。
「しっかり対応すれば防げたチャンスが何度もあったにもかかわらず、見逃してしまった。学校の対応が不十分だったと言わざるを得ない」
「先生たちが子どもの心に寄り添えていなかったのが問題。子どもの悲しみや苦しみを表面的に捉えてしまった。また、市内中学校では、いじめの問題に校長や教頭が十分に関わっていない現状がある。いじめは担任でなく校長マターだ。校長は問題の重要性を認識し、指導力を発揮しないといけない。今回の件では、学級担任が(亡くなった男子生徒の)親に連絡しなかったことも大きなミス。連絡があれば家庭でも話ができたし、事態が変わっていた可能性もある」
「さらに、問題の初期対応の誤りと組織的な責任は免れない。学校や担任や市教委が、問題をどうして防げなかったのかを解明しないといけない。(男子生徒が通っていた)学校には、いじめに対応するしっかりとしたガイドラインがあったが、機能していなかったことも問題だ」
(岐阜新聞、同WEBほか)
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教育長は、リーダーシップを発揮され、事件後早急にアンケートを実施、第三者委員会の情報公開を約束し、すでに知り得た情報からいち早く誤りを認め、かつ現場にも配慮を加えた発言をされていると思います。全国の中でも良識ある対応をされた市だと思います。
ちなみに今回は文科省も素早い対応を示しました。事件後の7月8日、文科省は担当者2名を派遣し、教育長らから聞き取りをし、事案の真相を解明し、今後に生かすようにと指導しています。
まず、なぜ、いじめは担任でなく校長マターなのでしょうか。
いじめを解決するにあたって、どうしても加害者側、被害者側双方に感情的なしこりは残ります。担任は加害者、被害者双方の先生なのです。人情がからみやすいので、厳しい対応が難しい場合もあります。
これを超越して理性的、合理的に解決していくためには、管理職(校長)による、コンプライアンス重視のゼロ・トラレンス対応が必要です。また、いじめ解決では初期対応が重要なことは、当法人のHPでも繰り返し解説をしてきたところです。
ここで、少し違う角度から、「心に寄り添う」こと、心の世界をわかりやすくお話させていただきたいと思います。
先生たちが、子ども達と心を通わせ、「心に寄り添う」ために、どのような点に心がけたら良いのか、スクールソーシャルワーカーの立場から、先生たちへの参考になると思われる指針を示したいと思います。
では、「いじめられて、つらかったね」、「嫌な思いしたね」、このように共感すれば解決になるのでしょうか。
確かに、『共感、傾聴』は癒し効果があります。心身の弱った方、特に高齢者へのケアでは最も重要な柱です。
しかし、いじめ被害をうけた子どもの話を丁寧に聞くことは大事ですが、その後、何も実行しないのでは、「聞いてくれたけれど、何も変わらなかった」と、希望は失望に変わってしまうことでしょう。
そのほかに、スクールカウンセラーが教えるように、リフレーミングしたら「心に寄り添う」ことになるのでしょうか。
リフレーミングとは、
消極的だ → 思慮深い
せっかちだ → 行動的だ
元気がない → 控え目だ
のろまだ → 慎重だ
意思が弱い → 協調性がある
飽きっぽい → 流行に敏感だ
暗い → 落ちついている
というように、物事の見方を変えてみることです。見方を変えれば、景色が変わってきます。
人間関係で悩んだりするときは、相手に対する見方を変えることで、自分の心も軽くなることもあります。初期段階での、いじめ、不登校の防止、自殺予防には効果があるかもしれません。
しかし、状況はそのままで、被害者本人だけに心のありかたの変化を求めるのはいけません。
また、同じことを全員がすると、つまり、いじめを「いじめではない」と見方を変えてしまったら、加害者の行為を増長させるだけ・・という悲劇も生じる恐れがあります。
「表面的でない『心に寄り添うこと』」って何でしょうか。
暑い夏の夜の、あるエピソードを紹介したいと思います。
もう30年も前のある医療少年院でのお話です。医療少年院には、教科を教える先生、法務教官、医療・心理の専門家の方々が働いています。少年たちの情報は日々しっかりと共有されています。
「今朝は、ほとんど寝ていないので頭がボーっとしています。」と、ベテランの先生が話し始めました。実は昨夜、年少少年のA君が叫び声をあげたので、ひと晩中、抱きしめていたそうです。
「たすけて。たすけて。僕の胸に包丁が刺さっている。先生たすけて」
A君が泣きじゃくっています。
就寝中の叫び声に、宿直の先生たちが飛んでいきました。
もちろん包丁が刺さっているというのは現実ではありません。また、A君は、夢を見てうなされたのでもありませんでした。幻覚を見ているのです。A君は精神疾患を持ち、かつ事件を起こしたので医療少年院にいたのです。
ベテランの先生は、決して頭からA君を否定せず、落ち着かせることに専念しました。今のA君にとって、包丁が胸に刺さっているという非現実的な幻覚は、いままさにある現実なのですから。
「A、先生がとってやったぞ。どうだ、とれたか。」
「とれません。まだ、あります。痛いです。」
「この先生にも手伝ってもらうぞ。うんとこしょ。どっこいしょ。」
先生たちは真剣に汗を流して、A君の胸に刺さった包丁をとる試みをやりました。肩を抱き、手足をさすって落ち着かせながら。
なんだか、子ども向けの童話の「大きなカブ」のような風景です。こっけいかもしれません。しかし、そこには、何とか子どもの苦しみを取り除きたい、幻覚から子どもを救いたい、という強い熱意や行動力がありました。(もちろん、医師が判断して投薬することもあります。)
「とれました。」
「そうか、良かった。良かった。」
先生たちも汗だくだくになりました。
実は、A君は加害者ではありますが、同時に被害者でもありました。保護者から、有り得ないような児童虐待を受けて育ったのです。
子どもの生育歴、育った環境、保護者から受けてきた様々な虐待を知ったうえで、子どもの人生に対する深い洞察力が医療少年院に勤務する先生たちには必要です。
また、深い心の傷を負った子どもには、信頼関係のある大人の深い愛情が必要です。
先生たちには、ひとりの人間としての大きな愛情と包容力がありました。
毎日、顔を合わせる少年院の先生たちは、親代わりであり、子どもと信頼関係という絆で結ばれた、かけがいのない存在なのです。
医療少年院だけでなく、刑務所や少年院では、自殺企図は頻繁に起きることなので、いつも予防に心をくだいています。専門家としての知識や経験、ときに直感も大切です。
しかし、一番大切なことは、「何か助けを求めたら、すぐ対応してくれた」という安心を与えてあげること、このことが子どもの精神や情緒を支えています。
人間として、誰かに愛されるというのは、魂の喜びであり、人間として立っていける、心の寄る辺であると思います。
相手から、何かもらおうと思ってやっているわけではない。「君がそこに存在していてくれるだけで幸福だよ。」、その気持ちを伝えています。君が存在しているだけで幸福、これが子どもにとっての「自己肯定感」の醸成につながるのです。
そういった、毎日の子どもとの関わりがあってこそ助けることができるのだと思います。
もちろん、徹夜の勧めをしているわけではありません。先生がサラリーマンであってはならないと居丈高に言うつもりもありません。できれば、残業せず、仕事に見切りをつけて、しっかり休日を取ってリフレッシュしていただきたいと思います。
けれども、子どもファースト、一番大事な場面では、決して時間と労力を惜しんではいけないと思うのです。
それは、先生にしかできない仕事がそこにあるからです。
先生が聖職というのは、子どもや保護者、他人から見た姿です。
努力の蓄積のうえで、様々な経験を積み、生徒たちから信頼される人格力を身につけたとき、周囲から見える、先生方、皆様の仕事をする風景が「聖職」なのだと思います。
そして、真剣に解決に向けて迅速に行動する。心を込めて、全身全霊をこめて、子どもを愛する。誠の力をそそぐ。これがすべての始まりなのだと思います。
失敗があっても、失敗から教訓を学び、再び立ち上がってください。尊い教訓から反省し、生まれ変わり、新しい世界を見てください。そして、再び子ども達を導いてください。その姿を子ども達が見ています。あなたを待っています。
それが先生、あなたの生きていく使命であり、子ども達の「心に寄り添う」、ミッションなのだと思います。
元・法務省中部地方更生保護委員会 保護観察官(社会福祉士・精神保健福祉士)
前名古屋市教育委員会 子ども応援委員 SSW
現福祉系大学講師 堀田利恵

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