「教育改革」 米国ワシントン市の最新事情 

米国教育事情 ミシェル・リーの挑戦 第1部<上>
首都での『荒療治』 「ダメ教員」年250人解雇;

090630 東京新聞    6月3日午前、ワシントン市教育監を務めるミシェル・リー(39)は、市内7つの公立学校を次々と訪ねた。現場の教員が恐れる「抜き打ち視察」だ。
 教員は教えるべきことをしっかり教えているのか。自分の目で確かめないと気が済まない。その間も、保護者らから携帯メールがひっきりなしに届く。
 「1日平均100通以上かな。(教育監に)就任後の1年間に9万~10万のメールに返事を出したわ。多くの人が学校を何とかしてほしいと訴えてくる」

 ワシントンの公立学校の学力水準は全米で最低レベル。米教育省によると、2007年度、小学4年と中学3年レベルの読解、数学の学力テスト順位は全国最下位だった。
 同年、教育改革を掲げて市長になったエイドリアン・フェンティは、貧困地区に有能な若手教員を送り込む民間団体の運営で名をはせていたリーに教育監就任を要請。市教育委員会の権限をすべて市長に移した上でリーに全権委任した。

 リーは「学力向上は教員の質がすべて」との信念の下、“ダメ教員”を徹底的に排除する。昨年度は教員200人、校長・副校長63人を解雇。リーの娘2人が通う小学校の校長も含まれていた。ワシントン教員組合によると、公立学校の教員数は約3500人。本年度も250人が解雇されたという。
 隣のメリーランド州モンゴメリー郡の教員数は約1万1500人で、本年度に解雇または辞職予定は31人。リーの改革の過激さは際立っている。

 公立学校の生徒の83%は黒人。リーは韓国系で、オハイオ州で育った。コーネル大卒、ハーバード大行政大学院修了の「よそ者」エリートは当初、父母から猛烈な反発を受けたが、今は違う。「子どもは何も学んでいないし、教員は宿題も出さない。どうして解雇しないのか、という声の方が圧倒的に多い」と自信満々だ。

 教員が不適格かどうかは、生徒の学力テストの点数アップなど徹底的なデータと授業観察などを総合的に勘案する。その結果「最後通告」を突きつけられた教員は、90日間で改善・進展がみられなければクビとなる。

 貧困率、犯罪発生率が極めて高いワシントン。教員組合委員長のジョージ・パーカーは「学び、教える環境が整わないと成功しない」と強調する。だが「環境の悪さは言い訳にならない」とリー。それは自らの教員体験に基づく信念でもある。
  ◇   ◇  
 オバマ大統領も注目する「荒療治」の教育改革が首都ワシントンで動きだしている。教育監ミシェル・リーは改革者か独裁者か。 (ワシントン・岩田仲弘、写真も) =敬称略
【2009年6月30日 東京新聞】  【写真】教育改革について語るミシェル・リー


米国教育事情 ミシェル・リーの挑戦 第1部<中> 
学力テストの向上 貧しくても教員次第で

 ワシントン市教育監のミシェル・リー(39)はコーネル大卒業後、名門大出身の新米教員を貧困地区にある公立学校に送り込む「ティーチ・フォー・アメリカ」(TFA)に参加。メリーランド州ボルティモアの小学校で3年間教えた。
 生徒はみんな貧しい黒人家庭の子どもたちで、給食の無料・割引制度を利用。「勉強も振る舞いも問題児ばかり。最初の1年は失敗したけど、次の2年間で、最低レベルだった学力テストの点数を最高レベルに引き上げることができた」。この経験が「私の生涯を決定づけた」という。
 「貧しい生活、地域の暴力など環境は何も変わらなかった。生徒の前に立つ教員が有能なら、学力は引き上げられると確信した」

 だが、成功物語ばかりではない。フィラデルフィアの弁護士ジョシュア・カプロウィッツはエール大卒業後の2000年、TFAに参加、ワシントンの小学校に赴任した。
 学級崩壊ぶりは、小学2年生が授業中に殴り合うほどすさまじかった。生徒らを振りほどこうにも、教員が生徒の体に手を触れるのは「体罰」として厳しく禁じられている。
 ある時、生徒の1人がトイレに行くというので、背中に手を当て送り出した。生徒は母親に「先生に胸を小突かれた」と訴え、母親は学校側に2千万ドル(約19億円)の損害賠償を請求。結局、9万ドルで和解した。
 カプロウィッツは1年で退職。「貧困の解消がなければ、学校システムは機能しない」と振り返った。

090701 東京新聞  リーの就任後、学力テストの数値は着実に向上している。だが、公立高校で社会科を教えるケリー・シルビアは「読解テストの点数を上げるために1カ月間、社会の授業を中断して、読解の模擬試験ばかりさせられた。教育者としてこれでいいのか自問した」と疑問を投げかける。

 リーは「テストの得点だけがデータではない。授業観察の結果も教員が有能かどうか判断する貴重なデータになる」と言う。
 これに対しては、「客観的な判断を下しているのか」と現場から不安の声が上がっている。
 貧困地区にある小学校の教壇に10年以上立ってきた44歳のジェフ・カネディは先月3日、90日間の研修で改善なしとして解雇通知を受け取った。
 「なぜ私なのか。学力テストのクラス平均も校内で最も高いはずだ。地元の著名人を授業に招いたりして、親の評判もいい。私が組合の活動家だからなのか…」  (ワシントン・岩田仲弘) =敬称略  【2009年7月1日 東京新聞】


米国教育事情 ミシェル・リーの挑戦 第1部<下> 
終身雇用にもメス 守るべきは、子の権利

 首都ワシントンで年間200人以上の教員の解雇を断行する39歳の女性、ミシェル・リー教育監。「全米でわれわれのやっている改革が注目され、ワシントンは(新米教員の)目標都市になっている」と、教員補充に苦労はないと言い切る。
 自らもその一員として教えた、名門大出身の新米教員を全米の貧困地区の公立学校に送り込む「ティーチ・フォー・アメリカ」(TFA)などから積極的に採用を図っている。

 だが、ワシントン教員組合委員長のジョージ・パーカーは「新米教員の半数以上が1~2年で辞めていく。6年以内となるとその割合は8割に上る。現場の教員の支援態勢づくりにもっと目を向けるべきだ」と批判する。

090702 東京新聞  教員の支援態勢には財政的な後ろ盾も不可欠だ。リーは教員も有能であれば、それに見合った報酬を与えるべきだと主張。昨年来、能力給制度の導入に向け、組合側と雇用契約の交渉を続けている。
 優秀な教員には最高で年13万1千ドル(約1250万円)の報酬を約束する。全国の教員の給与平均は約5万ドルだから破格だ。「優れて有能な教員たちは今、隣の教室のとんでもない不適格教員と同じ報酬であることにいらついているはずだ」とリー。実現すれば全米最高レベルの教員報酬となる。

 オバマ大統領も今年3月、「これまで多くの民主党支持者(教員組合)が、優秀な教員に特別給で報いれば授業に効果が出ると知りながら反対してきた。今こそ、良い教員には報い、悪い教員には言い訳をさせてはならない」と強調。能力給制度を積極導入すべきだとの考えを示した。

 リーはそれだけにとどまらない。最高レベルの報酬の代わりに、採用2年で得られる終身雇用の権利を放棄させるというのだ。
 組合側は「終身雇用は、正当な法手続きによらなければ奪われない、憲法で保障された権利だ」(委員長のパーカー)と猛反発。
 だが、リーにとって守るべきは、大人よりも子どもの権利だ。

 6月3日、ある中学校の抜き打ち視察で、男子生徒から「この学校は閉鎖か」と聞かれた。「そのつもりはない」と答えると、理由を挙げながら「閉鎖すべきだ」と、切々と訴えられたという。
 「良い教育かどうか、誰よりも子どもたちが知っている。大多数の市民が、学校がどれだけひどいか気づき、私たちのやろうとしていることを理解してくれている」とリー。改革の手綱を緩めるつもりはない。 (ワシントン・岩田仲弘)=敬称略   【2009年7月2日 東京新聞】  【写真】ワシントンの公立小学校卒業式で記念撮影する生徒ら。フェンティ市長(後列左から2人目)も飛び入り参加


米国教育事情 ミシェル・リーの挑戦 第1部<番外編> 
リー教育監に聞く  市長の支持あればこそ

090703  東京新聞--荒廃した学校を避けて公設民営の「チャータースクール」などに通う生徒が増える一方、公立校の生徒は激減し、あなたは自分の手で23校もの公立校を閉鎖している。
 「チャータースクールだろうが、公立校だろうが、子どもたちの学力が上がれば関係ない。私の仕事は、公立校の市場シェアを広げることではない」

--これまでの改革の自己評価は。
 「就任以来の2年間で大きな進展があったのは間違いない。でも生徒の習熟度はまだまだ“F”(落第点)。どれだけ頑張ったかは問題ではない。結果がすべてだ」

--数多くの教員を解雇しているが生徒の親から抗議は来ないか。
 「ほとんどない。むしろなぜこの先生を解雇しないのか、みんな不適格と思っているのに、やり方が生ぬるいのではないか、という声の方が多い」

--能力給制度の導入に積極的だが、教員のやる気はお金次第か。
 「それは違う。ほかにも教員が力を発揮するための環境整備を進めないといけない。私は就任以来、そのための予算を400%増やしてきた。給与はその一部分にすぎない」

--目標は最高で年収13万1千ドル(約1250万円)。十分か。
 「われわれが提案しているのは、全米都市部の教員で最高レベルの報酬。魅力的だとは思うけど、それで十分かは分からない」

--なぜ思い切った措置をとれるのか。
 「フェンティ市長のおかげ。私より優秀で同じことをやろうとしている教育監はどこにでもいる。それができないのは、私が受けているような政治的な支援態勢がないから。対組合、対議会、対教育委員会…。私は全く心配する必要がない」

--オバマ大統領は能力給の導入を打ち出した。心強いのでは。
 「そう。同じことを言っても反響が違うから。人気のある尊敬すべき人物からメッセージを受け取ればそれだけ、人々の意識にも浸透し、改革への道も開ける。ただ提唱するだけでも、ものすごく重要なことよ」

--改革を進める上で抵抗は強くないか。
 「メディアにとっては対立の構図をあおる方が面白いんでしょうけど、大多数の市民がすでに支持してくれている。街を歩いてみれば分かるわ」
  ◇    ◇
 昨年末、米誌タイムは、ワシントン市のミシェル・リー教育監(39)が黒板の前でほうきを両手に仁王立ちする写真を表紙に掲載した。不適格教員を掃き出す-。インタビューで「始めましょうか」と腕組みするリーさんを前に思わず背筋が伸びた。アジア系米国人だからか、基礎学力の徹底を求める姿勢に東洋的な教育観を感じた。 (ワシントン・岩田仲弘、写真も)
【2009年7月3日 東京新聞】  【写真】「結果がすべて」と断言するリーさん 

 

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[ 2009/07/17 07:07 ] 海外情報 | TB(0) | コメント(0)

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